10人の女性が立ち上げた太陽光発電所 最貧国イエメンの地域電力供給を支える

女性の社会進出が遅れているイエメンで、太陽光発電を使って地域のインフラ整備と雇用創出を行なっている女性グループがある。「女性は家事を」という常識を跳ねのけて、地域貢献を成功させたのが、この太陽光発電所を仲間とともに立ち上げたイマン・ハディさんだ。

本記事の画像クレジット:©︎Sustainable Development Foundation

脆弱な電力網をカバーする
太陽光発電という選択肢

アラビア半島南端に位置するイスラム教国イエメン。同国では2014年から続く内戦とそれに伴う貧困により、社会における女性の立場が他のイスラム教国と比べても特に低い。そのイエメンで、地域初の太陽光発電所をイマン・ハディさんを中心とする女性グループが立ち上げた。同発電所は地域の環境・社会・経済を大きく変えている。

イエメンでは、内戦前においても国の電力インフラは十分ではなかった。電力網は国全体の3分の2をカバーするに過ぎなかったからだ。その後、イランから支援を受けた反政府武装勢力のフーシ派と、国際社会が支持しサウジアラビア主導の連合軍が援助する政府の争いが勃発。イエメンの脆弱な電力供給の大部分を担っていたマリブ発電所も、2015年から2020年5月まで停止していた。マリブでは現在も戦闘が続いており、余裕のある家庭は自家発電で電気を得られるものの、貧しい家庭は発電機やその燃料を購入することはできない。そこで注目されたのが太陽光発電による「マイクログリッド」だ。

2019年、イマンさんは国連開発計画(UNDP)と欧州連合(EU)の支援を受けて、首都サヌア北西に位置するハッジャ県アブスに小規模な太陽光発電所「フレンズ・オブ・エンバイロメント発電所(Friends of the Environment Station)」を設立。イマンさんはその施設を10人の女性たちと運営する。

UNDPによると、ディーゼルによる電力コストは1時間あたり0.42米ドル(約46円)だが、太陽光だと0.02米ドル(約2円)と低い。25件から始まった電力供給は、43件にまで広がった(2021年3月現在)。イマンさんは、将来的には大規模な太陽光発電設備を立ち上げ、さらに多くの世帯に電力を供給する夢を持っている。

イマンさんらによって地域に設置されたソーラーパネル。

またイエメンの失業率は13%と高く、多くの人が雇用の不安定な中で暮らしている。そこでイマンさんらは、地域の人々が食料品店や衣料品店などの小規模事業を始められるように、発電所で得た利益を融資することを始めた。人々が商売を起こすことができれば雇用が増えるからだ。

今では地域では欠かせない存在になっている発電所だが、プロジェクトを始めた当初は多くの壁があった。男性優位が強いイエメンで、女性がこのようなプロジェクトを立ち上げることに家族など周囲が反対し、地域からも笑われていたそうだ。なぜなら、イエメンの社会において女性は、仮に大学を出ていたとしても女性が自らの意思で何かを決定することは難しく、外で働くことはできない。家事をすべきとされるからだ。そのような逆風の中でイマンさんは、この仕事の重要性を少しずつ伝えていき、周囲と知識を深めながら説得していくことでプロジェクトを進めてきた。

地域インフラの核である太陽光パネルの維持は大切な仕事だ。

 

電気が通ることは地域の子供たちの教育向上にも役立つ。

 

安定的な電力供給が
新しい雇用を創出する

イマンさんたちの太陽光発電所のおかげで、地域で安定的に電力供給を受けられるようになり、住民の生活にも変化が生まれている。

UNDPは現地のこんな話を紹介している。同地域に住む女性のファレハ・モハマドさんは、粗末な小屋で年配の両親と暮らしていた。一家の収入は水売りの息子の収入だけだった。しかし太陽光発電所の電気が使えるようになったおかげで、ファレハさんはミシンを購入し、女性向けの服の販売できるようになった。その結果、家族の収入は増え、広い部屋を持つレンガ作りの家を建てることができたという。

7人の子供を持つ父親であり、日雇い労働者であるイブラヒム・アリさんは、家族の生活環境をもっと良くしたいと思っていた。そこでイブラヒムさんは、イマンさんに太陽光発電の電力を使って溶接ガンを動かすことができるかどうか相談した。イマンさんはイブラヒムさんの考えに賛同。実現できるように後押しした結果、現在イブラヒムさんは、1日に2〜3個の貯水タンクを溶接しており、1日の収入は以前から比べると倍以上に増やすことができたそうだ。

電気を普通に使えない地域が世界にはまだある。

イマンさんの信念と行動力は一つの結果として実を結ぶ。2020年、持続可能なエネルギーを推進する団体や事業に贈られるアシュデン賞を受賞、また英BBCが2020年の「世界で最も影響力のある女性100人」の一人にイマンさんを選んだ。イマンさんの活動は、女性の地位が世界的に見ても低いイエメンにおいて女性の新たな可能性を示唆すると共に、太陽光における地域経済の活性化と人々の貧困を改善するための成功例となっている。