現在、年末に向けて議論を呼んでいるエネルギー政策。政府は2040年度の発電量における再生可能エネルギーの割合を、これまでで最大にする方針で調整に入っている。その割合は4~5割程度。2023年度は22.9%で、2倍程度にまで引き上げるという目標だ。この目標設定に対してはSNSで賛否両論が飛び交うことに。「目標が低すぎる。政府にやる気はあるのか」という声が上がり、先進国として責任ある温室効果ガス排出削減を求める署名活動も始まっている。
世界的には、気候変動対策を話し合う国際会議「COP29」では、イギリスが2035年までに温室効果ガスの排出を1990年比で81%削減する目標も表明する一方、アメリカは大統領選でトランプ氏が勝利。かねてから気候変動対策に懐疑的で、政権発足後は気候変動対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱する見通しもある。『ABEMA Prime』では、日本の目標設定について「高すぎる」「低すぎる」それぞれの意見をぶつけ合うとともに、日本の電力需要に対し脱炭素を見据え再エネ、さらには原子力が求められるものを考えた。
■2023年度は22.9% 17年で4割までいける?
「パリ協定」では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて、2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることが目的として掲げられている。日本も1.5度に向けて、「脱炭素」を進めるために火力発電などの割合を減らし、再エネの割合を増やすことが求められているところだ。環境活動家の山本大貴氏は、2040年度に再エネ4~5割という目標に対して「多いように感じる方もいるかとは思うが、世界はすでに再生可能エネルギーを主力電源に進めていく方向。日本の2030年の目標が36~38%。そこから10年あるのに、40%ではほとんど変わらないし、一番差があるところでも10数%。ほとんど再エネを増やさないと受け取られても仕方ない」と述べた。
一方、政策アナリストで元経済産業省の官僚だった石川和男氏は「高すぎて無謀」という意見を持つ。ただし、無理な目標だからこそ『目標』であり、現実的な目標では注目もされず、また予算も取れず規制緩和も進まないという。「CO2削減をするなら、増やすべきは再エネと原子力だ。再エネの4~5割は達成できないが、このくらいやらないと政策資源が投入されない」。達成できない理由については「去年ぐらいまでは、日本全体のエネルギー使用量が減っていた。工場の海外移転や日本の省エネ技術が優れていること、さらに2011年の原発事故以来、翌年からものすごいお金を再エネに投入して『再エネバブル』が起きたことで、再エネの最大比率が上がっていた。ところが去年から半導体工場やデータセンターなどが増え、政府は電力需要が増えるという目標を出した。そうなると、そのエネルギー量は、再生エネルギーでは全く間に合わない。原子力か化石燃料、あるいはその両方を投入しないと、とても間に合わない」と説明した。
起業家・投資家の成田修造氏も、石川氏の意見に沿った。「世界と言うが、世界じゃなくてヨーロッパが作り出したルールに乗せられているだけ。気候変動の考え方もそうだし、自然エネルギーとか脱炭素みたいなムーブメントにお金を投じろ、技術革新をしろというのは、世界の合意というよりヨーロッパが作り出したルール。2011年から2024年までで、電力料金は1.5倍や2倍近くまで上がっている。家計のダメージはみんな痛感している中で、さらに節電ムーブメントみたいなものが起きて、どうなっているのかと国民は怒っている。そういうことが起きている中で、全部再エネにしますと言ったら、電気料金なんて当然跳ね上がるし、電力需要も不安定になる。50%に改善も基本的に厳しいだろうし、そもそもそれを100%に持っていこうという考え方自体にも懐疑的だ」と語った。
■再エネでどこまで賄える?
再エネはさらに推進したいものの、日本自体が求める電力需要に追いつかない。太陽光、洋上風力に続く新たな技術革新が求められるものの、その間を埋めるものとして出てくるのが、やはり原子力だ。ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「将来、何十年か先に大規模な蓄電池が可能になってきたら、再エネで昼間、太陽光で発電したものとか、風が吹いた時に風力で発電したものを貯めておけるが、現状はない。その間のタイムギャップを一体どうするのかという議論が、今のところうまくいっていない。原子力は福島の事故があり、原子力規制委員会ができて、ものすごく厳しい規制がかかっているからなかなか新設できないが、小型モジュール炉みたいな、絶対に事故が起きそうもない技術の開発も進んでいる」と語った。
原子力の現状については、石川氏が現状を補足した。「日本には(原子炉が)昔54基あった。福島の事故があり、これを33基に減らした。原子力規制委員会は、世界的に見ても非常に厳しいので、なかなか再稼働させない。ただ、技術的にも科学的にも、原子炉1基を再稼働させてしまえば、ものすごく莫大な量の化石燃料を削減できる。大事なのは再エネを増やすのではなく、化石燃料を減らすこと」と述べた。
■元経済産業省官僚「原子力は安い」
再エネと原子力、効率はどの程度違うのか。山本氏は、再エネ割合4~5割を達成する上で最も取り組みやすいのが、太陽光だと推す。「早期にどんどん入れられるという意味では即戦力。(広大な土地を使う)メガソーラーという形ではなく、まだ(住宅の)屋根上に全然乗っていない。ちゃんとポテンシャルも見るべきだし、屋根上だけでなく、農地でソーラーパネルを活用していくような方法も進んでいる」と述べた。NO YOUTH NO JAPANの代表理事を務める能條桃子氏も「たとえば東京都は、屋根置きのソーラーパネル新設を、家を建てる時には一応義務化する施策を作った。こういう1つ1つの施策は、他の都道府県でできることもあるのでは」と加えた。
これに自宅にもソーラーパネルを取り付けているという石川氏は、発電量の弱さを指摘。「日本の住宅全部でやったとしても、日本のエネルギー需要の1%にも満たない」とし、原子力との比較では「原子炉1基で100万キロワットという単位がある。これは数十万世帯を安定的に賄う電力だ。これを太陽光パネルでやろうとすると、山手線1周の面積が必要になってしまう。効率がよくなったパネルを使っても1周の半分は必要だ」とし、さらに「前から言っているが、原子力ははっきり言って安い。もし震災以降、原子力を止めずに再エネを一緒に今までやってきていたら、再エネのコストもものすごく圧縮できた。今の電気料金は高い。原子力がきちんと動いていれば、それを抑えることができる。目標は化石燃料を減らすこと。どの電源が一番費用対効果がいいかと考えると、日本の場合には順番で言うとおそらく水力、原子力、その次に太陽光。ただ太陽光は1個1個が小さいので、みんなで頑張らないといけない。これが技術的な現状だと思う」。